2012年9月7日金曜日

ベトナム人のおばさんとサムスンのTV。

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「お前なに沈没してんだよ!」

1番の親友がカオサンに来た。同じ旅人デビューのくせに言ってくれる。

高校で出会って同じクラスは1年間だけだったけど、ずっとずっーと仲良くしてきた。

男同士でプリクラをとってもいいと思えるのはコイツくらいだし、

お金の損得なんて関係なく気持ちよく付き合える数少ない親友。 

こいつの隣は居心地がいい。

「いやいや、沈没とかやめて!バンコクめっちゃ出たかったんだから!」
短期旅行者に比べればツアーやどこかに足を伸ばす頻度は少ないからそう思われても仕方ない。


彼の名前は 諸江(もろえ)。

簡単に諸江の紹介をさせてもらうと、大きいやつです。からだもこころも。

詳しくはまた別の機会で。

非日常から日常に変わりつつあったカオサンでの暮らしに一旦区切りをつけた。

諸江と合流して行く事にしていたラオス、バンビエンに向かう。

カオサンから奮発してVIPバスで13時間程欠けて一気に北上するプラン。

今回は時間の節約。バス乗り場に向かう。人はあまり多くない。


「あのおばちゃん、SAMSUNGのテレビをバスに積んでるよ。」

「冷蔵庫並みにエアコン効き過ぎ。。。エアコンの穴、チョコパイで塞ごうぜ。」

「そういえば、ベトナムでマッサージ行ったら。。。」

そんなくだらない話から旅のネタまで語り合う。ふたりで話す時間は早足に駆けていった。


 イミグレーション。



タイ、ラオス、中国、フィリピン。

イミグレーションを通る時、なぜかスタッフの顔は怖い。怖い顔が採用基準なのだろう。

そうでなければ、人の顔からあそこまで笑顔を奪ってしまう仕事とはなんなんだろう。

無言でパスポートをよこせと促し、冷たい目でチェック済ませ、放り投げてくる。

一日に何百枚ものパスポートをチェックする彼らの仕事はたしかに退屈だろう。

あの仕事に笑顔をのせて送り出してくれる日本のイミグレーションはやはりすごい。

なにがこの気持ち隙間をつくるのだろう?単に"豊かさ"だけで語っていいのだろうか。

「400バーツ貸してほしいの。」



 タイの国境ノンカーイからラオスへ入国を済ますと、

同じバスに乗っていたベトナム人のおばさんが困った顔で話しかけてきた。

彼女の目にどう僕らは映ったか、真っ先に僕らのところへ。


 「SAMSUNGのTVがイミグレーションを500バーツ払わないと通させてくれないの。私がベトナム人だからよ。 ビエンチャンで返すから。400バーツ貸していただけないかしら。」








 僕らは貸すことにした。もちろん、貸すことにためらいはあったが、ぼくたちの心はそのベトナム人のおばさんを信頼出来た。

一安心したような顔でこちらへ戻ってくるおばちゃん。

 「ラオス人は怠け者。ああやってお金をとって自分のポケットに入れるのよ。」

そういってなんとかSAMSUNG製のTVは国境を超えた。

「まさかあのTVにここまで関わるとは。」と諸江が笑う。 

バスに乗る前は笑ってみていたこのTVも、今はなぜか思い入れのあるものに変わっていた。


話を聞くとベトナム人のおばさんはどうやら教師のよう。

台湾人の同い年ぐらいの学生を連れている。台湾人の女の子も英語を勉強しているらしく、会話が弾む。

僕も負けてはいられない。英語の勉強続けてます。


身体も弾んだ。ラオスに入ってからは道路が悪いせい。

ほかの旅人からあの道のりはひどかったとか、バンを押したとか聞く。

その経験がない僕は、実はそういった経験を楽しみにしている愚か者なので逆に胸が躍る。

僕にとって旅を感じる瞬間なのかもしれない。

冒険に足を踏み入れていく物語の感覚。


しばらくしてバスが止まる。 

ビエンチャンで時間を潰したあとにバンビエンヘ行くと聞いていたがどうやらここで別々に乗り換えるようだ。


ここで別れなければいけない。





ベトナム人のおばさんはまだお金を友達から借りれていない。


ついさっきまで元気に話をしていたおばさんも状況を察知したようだ。

 ベトナム人のおばさんが申し訳なさそうに近よってくる。


そして、身につけていた指輪をそっと差し出された。

「I'm sorry...I give you this ring....」

安いものかもしれない、でも特別な想いがこもった指輪かもしれない。

ぼくらの思慮の及ぶ範囲ではなかった。

僕らはその指輪を見つめたが、答えはすでに決まっていた。

 「I can't recieve it.It's OK.We could accept ur glatitude.」 

「気持ちだけ受け取ります。」

そう告げて、彼女をバスに乗り込ませ、僕らは手を振って見送った。 



僕らはお金を失い、得たものはあるだろうか?

仲良くなれたことに、本当に信頼して打ち解け会えたこと。笑いあえた時間。

もし、あの場でお金を貸さずに見捨ててしまっていたらどうなったであろうか。

きっと誰かお金を貸してあげる人はいただろう。状況は変わらない。

それでも、僕らの気持ちは180度変わるだろうし、後ろ髪をひかれたままだったはず。


ぼくらは重要な事を見失わなかった。

お金が帰ってくるかどうかではない。

困ったひとをちゃんと助けられたかどうか。 



お金は大切だけど、そこ価値の重さは時によって変わることを忘れてはいけない。 

お金を観点にしたら、僕らはひとつの賭けに負けた。 

でも、人間を判断する事に関しての賭けには僕らは負けてはいない。 




そんな言い訳がましく聞こえるかもしれませんが、僕らの気持ちに後悔は残っていないのが1番重要なこと。


さて、ラオスの悪路は続きます。




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